東京地方裁判所 平成12年(ワ)8609号 判決
原告 阿部芳久
右訴訟代理人弁護士 杉原正芳
被告 三菱地所株式会社
右代表者代表取締役 福澤武
右訴訟代理人弁護士 豊泉貫太郎
同 木屋善範
主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の別荘地へ、継続して温泉の給湯をすべき義務があることを確認する。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文と同旨
第二事案の概要
本件は、被告の分譲した別荘地について被告と給湯契約を締結していた原告が、右契約に基づき給湯義務の確認を求めた事案である。
一 前提となる事実
1 被告は、原告に対し、昭和六三年一一月一〇日、別紙物件目録記載の別荘地(以下「本件別荘地」という。)を代金二六五〇万円で売った(争いがない。)。
2 原告と被告とは、右売買契約の付帯契約として、右同日、本件別荘地について温泉供給契約(以下「本件契約」という。)を締結した(争いがない)。
右契約には、要旨以下のような規定がある(甲一)
(一) 被告は、原告に対し、本件別荘地において、以下の各条項並びに温泉供給規程に基づき供給することを約諾する(一条)。
(二) 原告は、被告に対し、温泉工事負担金として一〇〇万円を昭和六四年三月三一日までに支払う(二条一項)。
(三) この契約に定めのない事項については、別途定める温泉供給規程によるものとする(一三条)。
また、右契約の有効期間については「この契約の有効期間は契約締結の日より一〇年とします。ただし乙(原告)が期間満了六ヶ月前までに甲(被告)に対し、この温泉の供給の継続を申し出たときは、甲および乙は、協議のうえこれを更新することができるものとします。更新時による費用については、給湯施設が今後老朽および破損し、給湯に支障をきたすような場合、甲の決めた適正な修理、保全に関する費用を乙が負担するものとします。」(五条)と定められていた(甲二)。
なお、右契約の契約書には、契約期間満了時の費用について、右のほかは一切記載がない。
3 被告及びその代理人の株式会社ダイヤコミュニティーは、原告に対し、平成一〇年九月九日、同年一一月九日をもって本件契約の契約期間が満了すること、契約更新の意思を確認する確認書の返送を求めること、更新に際しては、更新料(契約金)として二一〇万円(消費税含む)を一〇年間分割で支払うことなどの記載のある通知をした。これに対し、原告は、ダイヤコミュニティーに対し、同年九月一四日ころ、契約の更新は希望するが、更新料の支払には応じられない旨回答した(争いがない)。
4 そうであるところ、ダイヤコミュニティーは、原告に対し、平成一二年二月一日付けの書面で、原告から更新の申し出がないので更新の意思がないと推察するとして、同月から給湯を停止するとの通告をした。これに対し、原告は、被告に対し、同月一八日付け内容証明郵便で、前に更新を希望しているが更新料支払は承諾できないことを回答していたこと、もし更新時に費用負担を求めるのであれば、本件契約五条第三文にいう要件を被告が証明する必要があること、したがって、まず更新料の請求の根拠と金額の根拠について明確な回答を求めることを通知した。これに対し、被告は、原告に対し、同年三月八日付けの書面で、右通知に対する被告の見解として、本件契約は当事者間で更新に関する協議が整わなかったため、更新はなされず終了したこと、更新料支払については被告が平成二年一〇月一日付けで温泉供給規程を改訂し「温泉供給契約の有効期間満了後も、この温泉の供給の継続を希望する場合には、当社が別途に定める手続きをし、当社に対しその時点における所定の温泉権更新料を支払うものとします。」との条項を定めた事実があることを回答した(争いがない)。
5 被告は、本訴において原告に対する給湯義務の存在を争っている(顕著な事実)。
二 主要な争点
1 本件契約は期間満了により終了したか。あるいは、被告の更新拒絶に正当な理由が必要か。
(被告の主張)
本件契約は、平成一〇年一一月一〇日に期間満了により終了した。
すなわち、本件契約の五条は、「甲および乙は、協議のうえ」更新できた場合を除いては有効期間の満了により終了するとの文言の規定である。契約自由の原則によれば、契約文言どおりの法的効果が付与されるべきものである。国家の社会政策的見地から、借地借家法等では当事者の合意にもかかわらず格別の処理がされているが、本件契約はこのような社会法理が適用されるものではない。そして、本件契約については、当事者間の合意が整わないまま有効期間が経過したので、本件契約は終了したのである。
(原告の主張)
本件契約においては、別荘地と温泉供給は不可分なものとして販売されたのであり、一〇年後の更新が必要となることは別荘地売買契約の当初から予定され、買主が希望する限り当然更新となるのが別荘地販売の大前提であった。したがって、被告は正当な理由なしに勝手に更新を拒絶することはできないのである。
2 被告の更新拒絶に正当な理由があるか。
(被告の主張)
本件にあっては、以下の事情に照らして、被告の更新拒絶は十分な合理性を有するものである。
(一) 当初の期間設定が一〇年間という相当の長期間であること。
(二) 更新に際しては、もともと相当程度の出費を原告が負担すると約定されていたのに、原告は一切の出費を拒否したこと。すなわち、本件契約五条第三文は被告の決めた適正な修理、保全費用を原告が負担するとしているのに、原告は一切の出費を拒否した上で更新を要求したのである。
(三) 特に、契約締結時には担当者から更新時に百万円単位の更新料が必要であると聞かされ、また、平成二年には更新料が六〇万円から二〇〇万円に改訂されたとの通知(乙一)を受けていたこと。
(四) 更新時の費用として、一口二〇〇万円という金額が全加入者の平等負担金として適正、合理的な金額である(乙二)こと。
(五) 更新料を負担した他の契約者との間で著しい不均衡が生ずること。
(六) 温泉の供給は電気、水道等と異なり、別荘利用について不可欠ではなく、温泉の供給停止が別荘利用に著しい支障とはならないこと。
第三争点に対する判断
一 争点1(期間満了による終了の可否)について
本件契約五条第二文は、契約期間を定めた第一文に対する但書きの形式をとり、乙(原告)の申し出による更新を定めている。そして、そもそも本件契約は別荘地販売契約の付帯契約であるところ、被告は右販売に当たり本件別荘地を「温泉付建売別荘」として宣伝し(甲四)、別荘地への温泉の供給は客観的にみて別荘地の主要なセールスポイントであり、その購入者としては別荘の建物が存続する限り温泉の供給がされることを通常期待するものと考えられること、被告の関連会社である三菱地所住宅販売株式会社は、別荘地の管理に関し温泉を別荘地において「必要欠くべからざるもの」と認識していた(甲三)こと、温泉の給湯設備を沸かし湯の設備に変更するには設備の大がかりな変更工事が必要と考えられ、別荘地購入者に相当の負担となるであろうこと、ところが、本件契約が定める一〇年という期間は別荘が通常存続する期間に比して明らかに短期間といえることなどを総合すると、右更新規定は、別荘地購入者に契約の更新権を付与する趣旨の規定であると解するのが相当であり、右更新に際し当事者の協議を経ることとしているのは、温泉は天然の資源であることから、供給の変動に伴う契約内容の改訂等が必要となることも予想されるため、更新に当たり協議義務を課したものにすぎないというべきである。
そうすると、別荘地購入者からの契約更新の申し出があるときは、本件契約は原則として更新されるものであり、被告において更新を拒絶するには、期間満了時において温泉源の枯渇等で契約を維持することが困難であるなどの特段の事情があることが必要であるものと解すべきである。そして、契約の趣旨を右のとおり解すると、右特段の事情は契約更新を否定する被告において主張立証すべきものである。
これを本件についてみると、原告は、前提となる事実3のとおり、更新の申し出をしているのであり、被告の更新拒絶には特段の事情が必要である(なお、右申し出は契約期間満了の六か月前よりも後にされたものであり、本件契約五条にある期間の経過後の申し出ではある。しかし、被告は、右期間経過後の平成一〇年九月に契約更新の意思確認の通知を発しており、原告はこれに対し遅滞なく回答をしているのであって、期間経過の点は原告に更新権を認めることの妨げになるものではない。)。
二 争点2(更新拒絶の理由)について
そうすると、本件においては、被告側で更新を拒絶することを正当化すべき特段の事情を主張、立証すべきである。そこで、被告の主張する(一)ないし(五)の事情について検討する。
1 まず、(一)については、前記のとおり、一〇年という期間は別荘存続の期間と比較して相当の長期間とはいえない。
2 (二)について、被告は、原告が本件契約五条第三文に定めた費用の負担を拒否したと主張する。しかし、右規定は、その文言上、施設が老朽、破損した際の補修の実費負担を定めた趣旨のものと解されるところ、被告が負担を求めた二〇〇万円という金額は、新契約に際しての契約金額とまったく同額であること(甲六の1)、被告の平成一〇年九月九日付け及び平成一二年三月八日付けのいずれの書面においても、費用の算定根拠についてなんら明らかにされなかったこと(甲六の1、一〇)、被告は本件訴訟前この金員について「更新料」であると説明していたこと(甲六の3)に照らし、右金員は更新の際の権利金的な性格を有する更新料であって、前記規定が予定する実費負担の性格のものとは到底理解することができない。そして、このような更新料の負担を被告において定めたのは、被告の平成一二年三月八日付け書面に記載されているとおり、平成二年一〇月一日付けの温泉供給規程の改訂によるものである(前提となる事実4)が、更新料の支払義務の存否は本件契約上の基本的な権利義務関係にかかわるものであって、原告の同意なしに被告が一方的に規程を改正して義務を賦課することはできず、結局右改正前に契約を締結した原告に対し、更新料支払義務の存在を主張することはできない。
原告は、平成一二年二月一八日付け郵便で、費用負担の前提として本件契約五条三文の要件の証明を求めていたのに、被告においてこれになんら直接回答することなく、契約の終了を宣言したのであって、原告が費用の支払を不当に拒絶したものとは認められない。
3 また、被告は担当者が本件契約締結に当たり原告に対し更新時に百万円単位の更新料が必要であると言っていた旨主張する((三))が、これを認めるに足りる的確な証拠はない。また、被告及び三菱地所住宅販売の作成である平成二年八月付け「料金改定及び自動引落とし制度導入に係わるお知らせ」(乙一の1)と題する書面の別紙である「リゾートパーク伊豆あたがわ料金改定一覧表」(乙一の2)には、「温泉工事負担金、温泉権更新料、名義変更料」との項目がある。しかし、この温泉権更新料が何を意味するかについては乙一の1、2になんら説明がないし、そもそも前記のとおり本件契約締結時に契約書あるいは規程上更新料についてなんら定めがなかったのであるから、乙一の2の項目中に更新料という記載があるからといって、これが更新料支払義務の根拠となるものでもない。
4 更に、被告は、一口二〇〇万円という負担金が平等負担金として適正、合理的であるとする((四))。しかし、被告がその根拠とする「リゾートパーク伊豆あたがわ温泉施設工事金額・過去一〇年間の集計一覧」(乙二)には、例えば、平成元年度工事として「第二期二工区温泉設備工事」として二億八一二六万四〇〇〇円の記載があるが、このような支出が既存の設備の利用者である原告において負担すべき費用であるとは思われないし、また、新規契約金と同額を更新料として負担させること自体に疑問があり、一口二〇〇万円という金額の合理性を認めることはできない。
5 他の契約者との均衡((五))については、他の契約者が任意に更新料を支払ったとすると、その者と原告との均衡を論じても意味がない。
6 (六)についてみると、温泉の利用は、生活上不可欠なものとまではいえないが、本件別荘地においては、温泉付建売別荘として温泉の供給が前提となり、これが別荘地の主要なセールスポイントであることは前記のとおりであり、むしろ更新を原則と解すべきであることは前述のとおりである。
以上のとおりであり、被告が正当な理由として主張するところは、いずれも十分な説得力を有するものとはいえず、本件において、更新を拒絶すべき特段の事情が存在するとはいえない。したがって、争点2の被告の主張も理由がない。
三 そうすると、本件契約は更新され、有効に存続しているというべきであり、原告の請求は理由がある。
(裁判官 太田晃詳)
物件目録
静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本字中ノ山一二一三番地一二二
山林 九八四.八二平方メートル
(通称あたがわ別荘地、区画番号さくら台一二-一一-一)